>安倍晋三内閣が16日総辞職し、約7年8カ月続いた安倍政権が幕を閉じた。第2次政権が発足した2012年12月当時と比べると、京都を取り巻く状況は、そして我々の暮らしはどう変わったのか。さまざまな指標から振り返った。【石川貴教】
>インバウンドで「公害」も
>劇的に変わったのは、全国有数の観光地でもある京都らしく、観光に関する指標だ。京都市の観光入込客数は13年の約5162万人から、19年には約5352万人と200万人近く増加。京都市の観光消費額は7002億円から1兆2367億円と、約1・8倍にまで達している。
>これらの数字を底上げしたのが、インバウンド(訪日外国人)の存在だ。府内の外国人宿泊客数は、12年の約86万人から19年には約390万人と約4・5倍に急増。祇園や嵐山、伏見稲荷など人気の観光地に観光客が集中し、ゴミのポイ捨てや落書きなどマナーの悪さが目立ち、交通渋滞やホテルの予約が取りづらくなるといった「観光公害」が深刻化する事態ともなった。
>東寺の五重塔を背に報道陣に向かって手を振るインドのナレンドラ・モディ首相(左)と安倍晋三首相(中央)=京都市南区で2014年8月31日午前10時10分、(代表撮影)
>東寺の五重塔を背に報道陣に向かって手を振るインドのナレンドラ・モディ首相(左)と安倍晋三首相(中央)=京都市南区で2014年8月31日午前10時10分、(代表撮影)
>インバウンドに象徴される観光客増加の背景には、安倍政権が掲げた経済政策「アベノミクス」の存在がある。訪日外国人客数の拡大を成長戦略の大きな柱と位置付け、訪日客数を20年に4000万人まで増やすことを目標に設定。ビザの発給要件を緩和し、免税制度を拡充するなど、効果は如実に現れた。
>ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変している。京都市内のホテルは客室稼働率が低迷し、休業に追い込まれた所も少なくない。安倍政権の観光喚起策「GoToトラベル」の効果もあり、観光地では徐々に観光客の姿も見えてきているが、かつてインバウンドでにぎわっていた状況からは程遠いのが現状だ。
>非正規比率高まり、給与水準低下
>アベノミクスは雇用の面でも、一定の成果を残している。府の有効求人倍率(季節調整値)は12年12月の0・80倍から、20年7月には1・04倍まで改善。最近はむしろ新型コロナの影響で雇用情勢が悪化しており、有効求人倍率が一時は1・6倍を上回っていたことを考慮しても、全国的な雇用情勢の改善は京都でもうかがえる。
>ただ、非正規労働者の比率が高まるなど、雇用の在り方は大きく変わっている。府の状況を見ても、常用労働者のうちパートタイム労働者の割合は、12年の36・5%から19年には38・6%に拡大。フルタイムで働く一般労働者よりも給与が低い、パートタイム労働者が増えることは、労働者の全体的な給与水準の低下にもつながる。
>安倍政権は15年に労働者派遣法を改正するなど、労働規制の緩和を進めた。経済界の要望を受けた見直しで、成長重視の路線を進めた格好だが、労働者の立場が安定したとは言いがたい状況だ。
>人口減少の波止められず
>「地方創生」を掲げた安倍政権は活力ある地方を生み出すことで、東京圏以外の全国各地で加速する人口減少を防ぎ、地域の活性化策につなげようとした。ただ、府の現状からは、その効果をうかがうことは難しい。
>府の推計人口を見ても12年12月1日の約263万人から、20年8月1日には約257万人と約6万人減少。京都市でさえ約148万人から約146万人に減るなど、人口減少の波は府内の自治体を容赦なく襲っている。
>その一因となっているのが、出生数の減少だ。府内の出生数は12年の2万112人から、19年には1万6993人まで落ち込んだ。死亡数から出生数を引いた「自然減」は、12年の5299人から19年には1万32人まで増え、初めて1万人を超える事態となった。
>人口減少対策は子育て支援や「女性の活躍」推進など、さまざまな政策とも連関する。ただ、市町村の「消滅危機」が叫ばれる中、各自治体が描く将来像は住民に委ねられるべきであり、そのためには「地方創生」で不十分だった地方分権改革を、次の菅義偉政権は更に一歩進める必要があろう。