>東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の菅原聡准教授と塩津勇作大学院生(博士後期課程1年)らは、体温を用いて発電可能な新しいデバイス構造のマイクロ熱電発電モジュール(用語1)(以下、μTEGモジュール)を提案し、この最適設計法を開発した。また最適設計されたデバイスの性能評価から、提案のμTEGモジュールがウェアラブルデバイス(WD)の電源に応用可能な性能を有することを明らかにした。
>一般に、正確な熱解析が可能な分布定数回路モデルをデバイス構造の最適化に応用して設計を行うと、計算時間が膨大になる。そこで今回、このμTEGモジュールの高精度集中定数回路モデル、および熱抵抗と電気抵抗に関するトレードオフ・パラメータを用いて、出力電力を最大化する構造最適化アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムでは、WDへの応用を想定し、ヒトの産熱能力を考慮した恒温動物モデルを導入した。
>●研究成果
>マイクロ熱電発電モジュールの設計において、出力電力を最大化するためにはトレードオフの関係にあるモジュールの熱抵抗と電気抵抗を最適化する必要がある。そこで,モジュールの熱抵抗と電気抵抗をμTEG内のゼーベック素子の占有面積の割合から決定される1つのトレードオフ・パラメータを用いて表現して、モジュールの熱抵抗と電気抵抗を放熱および負荷に対して最適化することで、出力を最大化する最適設計アルゴリズムを提案した。また、この最適設計アルゴリズムに適合するμTEGモジュールの集中定数回路モデルも構築した。
>体温を用いたマイクロ熱電発電モジュールの設計においては系の設定も重要になる。従来の一定熱流モデルや、モジュールに一定の温度差を与える系モデルではヒトを恒温動物として表現できないことからWD応用には適合しない。そこで、ヒトの産熱能力を考慮した人体を恒温動物として正しく表現できる系モデルも導入した。
>「ヒト」を対象とするIoTともいえるInternet
>(IoH)が注目を集めている。ウェアラブルデバイス(WD)はIoHにおけるマン・マシン・インターフェイスとして期待されている。近年、室温近傍においても高い熱電性能を有する熱電材料が開発され、また、ヒトの産熱能力に対する理解も深まり(従来、考えられていた産熱能力より十分に高い)、体温を用いた熱電発電技術のWDへの応用が注目されはじめた。
>WDの最も電力を必要とする機能は無線通信であるが、IoHではスマートフォンなどのモバイルデバイスや無線LANなどといった中継器が存在する状況下での使用が想定されることから、これを近距離通信に限定することで、体温を用いた熱電発電をWDの電源に応用することが期待される。しかし、従来技術によるμTEGをWDに実装しても十分な出力を得ることは難しい。
>●今後の展開
>WDはIoHにおける重要なマン・マシン・インターフェイスになるだけでなく、将来のスマート社会において、デバイスの存在を気にすることなく、いつでも、どこでも繋がるウェアラブルコンピュータやエッジコンピュータへの展開が期待されている。このようなデバイスの電源確保は重要な技術課題の1つになっているが、体温はこのようなデバイスに適したエネルギー源として期待できる。したがって、本技術は将来のウェアラブルエレクトロニクスにおける電源の基盤技術となることが予想される。
>本研究では薄膜熱電材料と新型の熱アイソレーション・モジュールを用いているが、μTEG部におけるゼーベック素子の構成は、いわゆる
>型μTEG(用語4)と呼ばれるものである。本論文では、μTEG部に
>型を用いても真空/絶縁体ハイブリッドアイソレーション・モジュールを採用し、提案したアルゴリズムに基づき最適設計することで、WDに応用可能な出力が得られることを示した。μTEG部に薄膜熱電材料により適していると考えられる薄膜トランスバース型を採用すれば、さらなる高性能化も期待できる。薄膜トランスバース型μTEGも、本著者らによって提案されたものである(N
_____