異なる種類のニューロンの相互作用が手を伸ばしてつかむ動作を【日本の研究.com 】


異なる種類のニューロンの相互作用が、手を伸ばしてつかむ動作を可能にする

沖縄科学技術大学院大学

日本の研究.com 掲載日:2021.01.20

https://research-er.jp/articles/view/95829

>本実験では、マウスがチョコレート味の固形餌に手を伸ばしてつかむように訓練し、光遺伝学的方法を用いてD1・D2ニューロンを興奮させたり、抑制したりした。
>D1ニューロンがコーヒーカップを手に取る動作の初期段階を司り、D2ニューロンは手がカップへ向かう終了段階の動作を司っており、両タイプのニューロンがタスクを実行するために必要であることが判明した。

>OISTの行動の脳機構ユニットを率いるゴードン・アーバスノット教授は、次のように述べています。「私たちは、大脳基底核に存在するニューロンに注目しました。脳のこの部分は、運動機能に関わる大脳皮質とつながっています。そして、ニューロン神経細胞は、神経系の構成要素の役割を果たしている特殊な細胞であり、外界からの情報を筋肉の動きに結びつけています。」
>大脳基底核に損傷を受けた患者は、運動能力に深刻な影響を受け、コーヒーカップを持ったり、上着を着たりといった日常的に行う「手を伸ばしてつかむ」動作が困難になることがあります。
>「これらの大脳基底核にあるニューロンへの支障がパーキンソン病やハンチントン病のような疾患の発症に関与していることは分かっていますが、その背後にあるからくりは正しく把握できていません」とアーバスノット教授は説明します。
>このような疾患に関与しているニューロンは線条体の有棘投射ニューロンであり、円滑な運動機能に寄与する神経細胞の大きな集団です。線条体から大脳基底核のほかの領域へ直接情報を送信する線条体のD1直接路出力ニューロンと、大脳基底核の他の領域を経由して長い情報伝達経路をとるD2間接路出力ニューロンの2種類があります。人の行動に応じて、これら2種類のニューロンの集団の大小や比率が変わってきます。1種類のニューロンしか持たない集団も例外としてあるものの、ほとんどの集団はD1とD2の両方のニューロンで構成されています。このように、2種類の異なるタイプのニューロンが共に働くダイナミックなシステムなのです。これまでの研究によると、運動を伴うタスクでは、D1ニューロンが「開始」信号を出すのに対し、D2ニューロンは「停止」信号を出すことが示されています。本研究では、この理論を検証するために、2種類のニューロンの活動にそれぞれ変化を加えることにしました。
>実験を実行するにあたり、マウスが飼育箱の開口部を介してチョコレート味の固形餌に手を伸ばしてつかむように訓練しました。マウスが餌を入手できなかった場合を、3タイプのいずれかに分類しました。マウスが飼育箱の開口部から手を入れることができなかった場合を
「開始」エラー、マウスの手が開口部を通った後に餌とは違った場所に到達した場合を「終了」エラー、そして、マウスの手が餌に届いたものの、つかむことができなかった場合を「つかみ」エラーとしました。

>D1ニューロンとD2ニューロンの両方が正常に機能しているマウスがこのタスクを行うよう訓練したところ、失敗の最も多い原因はつかみエラーで、半分以上を占めていました。そこで研究者らは、光遺伝学的な方法を用いて、D1ニューロンとD2ニューロンのどちらかを光によって興奮させたり、抑制したりできるようにしました。

>研究者らは、D1ニューロンの興奮と抑制の両方によって、餌入手の成功率が有意に低下し、それに比例して「開始」エラーによる失敗数が増加したことを発見しました。
>一方、D2ニューロンの興奮によっても成功率が大幅に低下しましたが、それに比例して増加したのは「終了」エラーの方でした。
>興味深いことは、D2ニューロンを阻害することによって、餌入手の成功率が上昇したということです。

>研究の結果、いかなる動作においても、運動が円滑に機能するためには、D1、D2両タイプのニューロンが必要であることが判明しました。マウスは、D1ニューロンがなければ動作の開始段階で困難を経験し、D2ニューロンが正常に機能していなければ、ほとんどの場合、餌を手にすることができませんでした。しかし、この研究は、開始と停止の理論を裏付けるものとはなりませんでした。
D1ニューロンは餌に手を伸ばす動作の開始部分を行うために必要であることは判明しましたが、D2ニューロンは、タスクを停止するためではなく、実際には餌に向かって手を伸ばすために必要であることが明らかになったのです。nbsp

>「この研究は、私たちの脳がどのように機能するのかをより深く理解するのに役立ち、いつか神経変性疾患の治療法を発見することを可能にする研究へ多大に貢献するものです。パーキンソン病では、症状の改善には成功していますが、病気の根源を知る必要があります。それまでに、ニューロンが運動制御にどのように関わっているかを理解することは、患者さん達が日常的に直面する問題を解決する糸口となるでしょう。」と、アーバスノット教授は締めくくっています。


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